素粒子ハドロン理論研究室では、物質の構成要素である素粒子と、それらに働く相互作用について研究を行っています。これらの研究を通じてわれわれの住んでいるこの宇宙の成り立ちを知りたいと考えています。
ここでは素粒子論と、宇宙についての説明と、グループメンバーとその研究内容について説明します。

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素粒子論とは

素粒子とは物質をこれ以上分解できないところまで細かく見ていったときの究極の構成要素のことを言います。身の回りにあふれている物質の性質はこれを構成する素粒子の性質から説明することを目指し、素粒子とその性質を調べる学問が素粒子理論です。素粒子がなにであるか?という人類に普遍の問いに対する答えは、歴史的に時代ごとに変遷してきました。現代における物質と素粒子、およびその性質の関係はおよそ次の図のような感じになります。現在の素粒子理論は素粒子標準模型というものにまとめられています。理論物理の粋を終結した理論で、はっきりした実験事実との矛盾は認められていません。しかしながらこの理論には多くのパラメータ(15+α)を含んでおり、理論計算の結果が実験値と合うようにパラメータを決めています。また、近年では宇宙の構造を説明する物質やエネルギーとしてダークマター(暗黒物質)やダークエネルギー(暗黒エネルギー)の必要性が出てきていますが、現在の素粒子標準模型は暗黒物質や暗黒エネルギーを説明しません。また、重力理論であるアインシュタインの一般相対性理論は素粒子標準模型と独立しています。素粒子標準模型のパラメータの値や素粒子の構成がどのようにしてこのように決まっているのか?宇宙の存在との関連はどうなっているのか?これらの謎に素粒子論は迫ろうとしています。

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素粒子論と宇宙

14_1208b_small物質とその性質、すなわち素粒子論の説明する物事は、宇宙そのものの性質でもあります。上で述べたような宇宙の暗黒物質の存在や、もっとエネルギーの高い(=もっと小さい領域)での素粒子の振る舞いの実験観測などから、はっきりした素粒子標準模型の矛盾が見つかるかもしれません。極限宇宙研究拠点の対象とする、宇宙における極限状況では、地上で実験できない高エネルギー現象や、高密度の現象が起こっています。これらの宇宙の極限現象の観測を通じて、素粒子論の進展を目指すことが行われています。

グループメンバーの紹介

稲垣知宏 教授

宇宙は数多くの謎に満ちています。一様で平坦な現在の宇宙が形作られるためには、空間が急激に膨張するインフレーション期を経たと考えられています。銀河の回転、巨大に質量によって光が曲げられることで生じる重力レンズから、宇宙は未知なる物質、暗黒物質、で満たされているようです。遠方にある超新星の赤方偏移の観測からは、我々の宇宙を満たす謎のエネルギー、暗黒エネルギー、の存在が示唆されます。より根本的な疑問もあります。空間の方向はどうして3つなのでしょう。そもそも本当に3つしかないのでしょうか?私は、このような謎を解き明かす理論を素粒子の標準模型を拡張、もしくは一般相対性理論を修正することで模索しています。解析計算と計算機シミュレーションにより、実験では到達できない高エネルギー領域の物理現象と超高温、高密度状態にある宇宙の初期状態から出発し、上の疑問に対する答えに近づこうとしています。スペイン、ロシア、中国、アゼルバイジャン等の研究グループとも連携して、特に、フェルミオンと呼ばれる場の役割に注目し、新し理論模型の構築と観測による模型の検証可能性について研究を進めています。


両角卓也 准教授

両角卓也 准教授

極限宇宙と直接関わるような私の研究はCP対称性の破れに関する研究です。現在の宇宙の物質、反物質非対称性が素粒子物理における粒子数非保存やCP対称性の破れと関係しているのではないかということで広く関心を持たれています。マクロなスケールの観測量をミクロな法則の保存則の破れから説明するというのは、かなり野心的な試みです。加速器実験でコントロールされたもとで計測するCP対称性の破れは、実験を繰り返すことにより精度をあげて、理論との整合性を検証できますが、宇宙の物質、反物質非対称性のようにマクロな観測量を基にそれを説明する理論を検証するのは容易ではありません。このような非対称性が初期宇宙に生成されたとする理論仮説を検証するには宇宙の歴史をさかのぼる必要がありますが、一言にさかのぼるといっても、現在の観測は宇宙の一部だろうし、その精度も限られているという問題もあります。そうした中で、私は、理論的な作業仮設をおいて、宇宙の粒子数密度がどのように時間発展するかを膨張宇宙の下で研究しています。一種類のスカラー場からなる簡単な模型で、面白い結果が出てきました。


石川 健一 准教授

 石川 健一 准教授

素粒子理論は紙と鉛筆で数式をいろいろいじっているイメージがありますが、私は素粒子標準模型の中に含まれている量子色力学(Quantum Chromo-dynamics, QCD)を、コンピュータによる数値計算を用いた解析を行っています。QCDは、上述の物質の成り立ちの図や素粒子の一覧表にあるクォークという素粒子の性質を説明する理論ですが、数式を見ただけでは実際の観測量を説明できません。QCDの数式の解析は大変難しく、私は格子QCDの手法とスーパーコンピュータを用いて数値的に、QCDから陽子や中性子などの性質を説明し、素粒子標準模型のパラメータの精密決定に寄与する研究を行っています。近年(2013年~)では「京」コンピュータでのQCDの計算にも参加しています。 (図は格子の中の陽子をイメージ)05_Koshi_g_small


イラスト作成:有限会社 AND You