宇宙理論研究室では、相対性理論が関係する天体であるブラックホールや中性子星で起きる様々な動的な現象の解明や宇宙全体の起源とその進化を解明の研究を行っています。例えば、その関係する密度は地上ものに比べ、何桁も違っています。太陽や惑星ほどそれほど身近でない研究対象ですが、それら極限的世界を知ることで森羅万象の関係がより明らかになると考えます。
ここでは宇宙理論グループが取り組む研究課題と個々のメンバーの具体的な内容を紹介します。
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宇宙と重力
重力(=万有引力)は大きな尺度では大変重要で、天体の構造や運動を支配するものとなります。非常に強まればブラックホールも形成されます。また、宇宙の運動も重力理論とそこに存在する構成物で決定されます。アインシュタインの一般相対性理論では時空の曲りとして重力を表します。図のように、ものがない場合は平坦な時空(左)であったのが、物体の重みで曲ります(中央)。さらに、物体が変動すると、その変動を伝える波である重力波が生じます(右図)。
相対論的天体
ブラックホールや中性子星などの天体では重力が強く、それを記述するのに一般相対性理論が必要になります。多くの天体では時間変動を見ることはほとんどなく、静的な状態です。また、これらの天体の数は例えば、夜空に普通に見られる星(恒星)の数に比べ、はるかに少ないです。一方、X線など光に特徴がある場合や、突然に輝くので知覚されます。これら相対論的天体はコンパクトで変動したなら、非常に短時間に莫大なエネルギーを放出する現象となることがしばしばあります。電磁波以外の形として、ニュートリノや重力波として外部へエネルギーが運ばれることもあります。ある中性子星で起こるフレアから内部構造まで知ることができることを図に模式的に表しました。星の内部の変動が外部の磁気圏(黄緑色の線は磁力線)を変動させ、X線やガンマ線の放出につながると考えらえています。このように観測から、強重力や高密度の状態を探るのに理論研究は不可欠です。
宇宙論
宇宙論では「宇宙がどのように始まり、進化してきたか」を研究します。銀河の大規模構造や宇宙背景放射から初期揺らぎと進化の情報を取り出すことがきます。それから分かってきたのは、図に示すようにインフレーションによって宇宙が始まり、そこで生み出される量子揺らぎが構造の起源となったという理論と観測が良く合うこと、また現在の宇宙が加速膨張していることなど新しい謎も浮かび上がってきました。精密な観測や理論予言の比較によって、ダークエネルギーと呼ばれる宇宙の加速膨張の起源やダークマターを含む宇宙の構造の進化を探る多様な研究が進められています。
極限宇宙と宇宙物理学
観測された現象を理論的に解明するとともに、より根本的な問題まで迫ります。例えば、インフレーション宇宙で生成される初期揺らぎは量子力学原理に従って予言されます。インフレーション宇宙が予想されるエネルギースケールは1016GeVにもなりえるので、観測的宇宙論によるインフレーション宇宙の検証は、1016GeVの世界での量子力学原理の検証にも繋がるのです。このように宇宙物理学は実験室での再現が難しい現象を取り扱うため、物理原理に基づいた理論予言と天文観測を比較することによって進展する学問です。
グループメンバーの紹介
岡部 信広 准教授
現在の宇宙の物質の約85パーセントは、暗黒物質と呼ばれる目で見ることができない未知の物質で占められています。暗黒物質は、蜘蛛の巣状の宇宙の大規模構造や銀河などの天体を形成する上で重要な役割を演じています。暗黒物質分布は、一般相対性理論が予言する重力レンズ効果を用いて直接復元することができます。すばる望遠鏡の主焦点カメラを用いて、宇宙の暗黒物質分布の研究をしています。また、目で見ることができる通常の物質(バリオン)は、可視光や電波・X線を通して観測することができます。様々な観測手法を組み合わせて、暗黒物質とバリオンの共進化の解明の研究を行っています。
西澤 篤志 准教授
重力は我々の身近にありながら最も理解が進んでいない力です。現代の重力理論は一般相対性理論ですが、量子重力理論は未完成ですし、ブラックホールのように重力が非常に強い領域や宇宙全体のような距離スケールにおける重力の性質はまだ十分な精度で検証されていません。2015年、ブラックホール連星合体により発生した重力波が初観測されたことにより、我々はブラックホール周りの重力が非常に強い領域を調べることが可能になりました。また、電磁波で見えない暗黒宇宙を「見る」こともできるようになりました。将来的には、宇宙の始まり(ビッグバンやインフレーション)さえも観測できると期待されています。このように重力波観測を用いて、宇宙進化の研究や、重力理論の検証、標準模型を超えた基本粒子の探索などを行っています。
木坂 将大 助教
ブラックホールや中性子星などの高密度天体からほぼ光速で噴き出すプラズマのアウトフローの存在が知られ、相対論的ジェットやパルサー風などと呼ばれます。これらに対し、大量のプラズマはどこで供給されているか、プラズマがどこでどのようにエネルギーを得ているか、観測される電磁波の放射メカニズムやその効率を決める物理は何か、という問題を解くべく研究をしています。主にブラックホールや回転する中性子星であるパルサー、中性子星連星の合体、さらに最近発見された電波帯域の謎の突発現象である高速電波バーストなどを研究の対象としています。
イラスト作成:有限会社 AND You