クォーク物理学研究室では、粒子加速器を用いた高エネルギー原子核衝突の実験的研究により、ビッグバン直後の宇宙を満たした物質状態 「クォーク・グルーオン・プラズマ」 を実験室中に再現し、そこで発現する多様な素粒子物理現象を探求します。壮大な宇宙創成の重要な一場面の実験的解明を通した宇宙創成のシナリオ完成が究極の目標です。

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クォーク・グルーオン・プラズマの探求

ビッグバン直後、わずか数十万分の一秒の間、 高温高密度の宇宙はクォーク・グルーオン・プラズマと呼ばれる現在とは全く異なった物質状態にありました。クォーク物理学研究室では、このクォーク物質状態の探求のため、世界中の研究者との国際研究協力体制を構築し、世界最先端の研究を推進しています。米国ニューヨーク州郊外のブルックヘブン国立研究所において 2000 年に稼働した、世界初の原子核衝突型加速器 RHIC を用いた国際共同実験研究 PHENIX では、金原子核同士の高エネルギー衝突中に未知の物質状態、すなわち前述のクォーク・グルーオン・プラズマを発見し、積年の探索に終止符を打ちました。さらに、理論的予想を大きく覆し、このクォーク物質状態がほぼ完全な流体としての性質を示すことを発見しました。この(古くて)新しいクォーク物質状態のさらなる性質解明のため、2009 年からは欧州合同原子核研究機構(CERN)の新世代加速器 LHC において国際共同実験研究 ALICE を日本グループの中心として進めています。

CERN 研究所 LHC 加速器 ALICE 実験

CERN 研究所 LHC 加速器 ALICE 実験

ALICE 実験, CERN 研究所, Photograph: Mona Schweizer © 2007 CERN

欧州合同原子核研究機構(CERN)は、スイス・ジュネーブ郊外に位置する、世界最大最先端の素粒子・原子核物理学研究所です。LHC 加速器は、スイスからフランス国境に跨る周長 27 km の大型原子核衝突型加速器で、前述の RHIC 加速器の 28 倍も高いエネルギーでの衝突実験が可能です。ALICE 実験には世界 30 か国以上から約 1,200 人の研究者が参加し、この世界最新鋭の粒子加速器を利用して、クォーク物質の性質の包括的な理解に挑んでいます。

クォーク物理学と宇宙

ビッグバンにより高温の火の玉として誕生した宇宙は、膨張により急激に温度を下げながら、最初の数分間でヘリウムなどの軽い原子核と電子などに満たされた状態に落ち着きます。その過程でビッグバンから数十万分の一秒後には、素粒子であるクォークはハドロンと呼ばれる陽子や中性子などに閉じ込められ、その後 138 億年間に亘り解放されることはありませんでした。クォーク物理学は、高エネルギー原子核衝突を用いて、この宇宙の進化の歴史をビッグバンに向けて遡り、極初期宇宙を満たした物質状態を実験室中で再現して、高温高密度のクォーク物質の性質を明らかにし、宇宙創成のシナリオ解明に挑む学問分野です。

グループメンバーの紹介

志垣 賢太 教授

志垣 賢太 教授

シマウマの生態を知る最善の手段は、必ずしもサバンナでの観察だけでなく、自らの手による飼育や繁殖、あるいは天寿後の解剖なども重要でしょう。宇宙も同じです。

ビッグバン直後の宇宙を満たした高温状態を実証科学として探求するため、高エネルギー原子核衝突実験 ALICE と PHENIX を推進しています。クォークが陽子やその仲間たちの中への閉込から解放された極初期宇宙の物質状態の性質のうち、特に物質の 「重さ」 の起源と考えられている対称性の自発的破れと、その対称性の高温クォーク物質中での回復現象に興味を持っています。また、高エネルギー原子核衝突において生成する宇宙最高強度の磁場生成にも着目し、高強度磁場の検出、高強度磁場中での特異現象、量子電磁力学の非線形現象などにも挑んでいます。


山口 頼人 特任助教

山口 頼人 准教授

素粒子であるクォークらが自由粒子として存在したビッグバン直後から爆発的な膨張を経て 私達の宇宙は現在の姿となりました。特にビッグバン直後の非常に短い時間には素粒子間に働く力の分岐や物質状態の変化が目まぐるしく起こり、その全貌は未だ解明されていません。そのような極初期宇宙で起こった現象の中で、複数のクォークが結び付き多種多様な粒子が生まれたことにより起こったクォーク物質から粒子物質へと相転移は人工的に作り出すことのできる唯一の素粒子場の相転移現象です。この相転移現象を詳細に調べるために私は高エネルギー重イオン衝突実験を推進しています。この研究を通じて、ビッグバン直後の宇宙で何が起こり、どのようにして現在の物質世界ができたか?という根源的な問いの核心に迫ることを目指しています。


本間 謙輔 助教

本間 謙輔 准教授

最新の素粒子・宇宙論においては、真空は何もない状態ではなく、むしろ、全ての物質の起源とも考えられています。宇宙の始まりには高温状態が実現していたと考えられていますが、宇宙膨張と共にその温度が下がるにつれて、様々な力を担う素粒子たちが分岐を始めます。そのうち、核力を担う粒子群は相転移を起こし、陽子や中性など“見える物質”に転化します。この相転移は、真空進化の一側面として捉えられ、この解明が私の研究テーマの一部です。さらに、宇宙が冷え現在の真空状態へ至るわけですが、残った真空は“見えないモノ”(暗黒物質、暗黒エネルギー)で満ちていることが宇宙観測から分かって来ました。光で暗闇を照らすと、光の散乱を通じて物質が浮かび上がります。同様に、物凄く強い光で、真っ暗な真空を照らせば、未知のモノが散乱を通じて浮かび上がる可能性があります。これは、超高強度レーザー場により検証可能となります。こういった未知場の地上探索も実施しております。


三好 隆博 助教

三好 隆博 助教

プラズマ物理に関する理論・シミュレーション研究を推進しています。特に最近は、プラズマ流体方程式に対する新しい高精度数値解法の研究開発に注力しています。宇宙空間や天体などで観測される様々なダイナミックな現象では、プラズマの流れ場と電磁場の相互作用が極めて重要な役割を果たしていると考えられています。したがって、プラズマ流体方程式をいかに正確に解けるかが宇宙・天体現象解明の重要な鍵になります。これまでに私たちが開発した磁気流体方程式の数値解法であるHLLD近似リーマン解法は、世界中の主要な宇宙・天体シミュレーションパッケージの標準解法として広く利用されるようになりました。今後も、最先端の数値解法を武器に、未踏パラメータ領域におけるプラズマのダイナミクスを探求していきます。